B.I.G. Joe / Midnight Express
B.I.G. JOEというラッパーは心理描写と情景描写の表現に長けており、それを駆使したストーリーテリングにも大きな魅力があります。
そんなB.I.G. JOEの楽曲の中でも私が特に感銘を受けた曲が『Midnight Express』です。
この曲はアルバム『THE LOST DOPE』に収録されており、B.I.G. JOEがオーストラリアで服役中に制作されたアルバムです。
『THE LOST DOPE』
そのためラップは刑務所からの電話越しで録音するか、無理くり修理したカセットテープに録音して作ったそうです。
音質としては最低の環境だと思いますが、刑務所という環境下で持たざる者が持てるものだけを駆使しクリエイトする。
それはブロンクスというゲットー地区で持たざる者が集まり街頭の電源を使ってパーティーを行ったHIPHOPの起源に繋がる精神です。
『Midnight Express』は刑務所という閉鎖的な環境にいる人間が作ったとは考えられないほど、大規模で美しい地球の営みを描写しています。
神々しい太陽の光の営み
命の源、水の小波
希望のように咲き、香る花の微笑み
この星を守ろうとする虫たちの囁き
大気にオゾンのベールを張る森林
生命を育み続ける海
その上空を自由に飛び回る鳥
嗚呼、美しい。
なんて美しい星なんだ
これほど美しい表現ができたのは、B.I.G. JOEが刑務所という閉鎖的空間で内省的思考を繰り返すことで、広い世界を想像することが出来たのだと思います。
この「想像力」こそがこれから人類が進むべき道を開く鍵になるとB.I.G. JOEが曲中で歌っています。
神は俺たちに想像力を与え
それをどう使うのか
見守っているはず苦しみ 傷付け合うために使うか
愛と美しさに満ちた世界を創るか
このような人間の真理を考えることについてB.I.G. JOEの自伝『監獄ラッパー』ではこう綴られています。
「普遍的な真理は変わらないもので、兄弟愛や、死生観というような、生きていくうえで考えなければならないトピックは前以上に熱く語ることができた。逆に生きるうえでさほど必要のないもの、たとえばパーティーとか、贅沢なテ ーマについてはあまり書けなくなった。」
地球の営み、人間に真理について表現されたこの曲のラストは、Midnight Expressに乗って宇宙まで視点が広げられます。
サザンクロスを流れる、水を受け
アンドロメダの雲の上に乗って
カシオペア座から風に吹かれ
オリオン座の向こうへ進んでゆけ。白鳥座のような翼に抱かれ
昴の煌めきに導かれ
大熊座の群れにさよならを告げ
天上の向こうへ進んで ゆけ
『Midnight Express』はシングルカットとして新たに、 DJ PERRO a.k.a DOGGとO.N.O によるRemix Verも制作されています。
『Midnight Express』
この曲で感じられる幾重にも重ねた思考と素晴らしい情景描写を堪能下さい。